『予告犯』

『予告犯』
筒井哲也
ヤングジャンプコミックス
全3巻

予告犯 1 (ヤングジャンプコミックス)

遠隔操作ウイルス事件の容疑者片山祐輔が参考にしたというので読んでみた。これ以外に貴志祐介の『悪の教典』も参考にしているそう。

この事件は、卑近な『攻殻機動隊S.A.C.』に思えて非常に気になっているのだ。サイバー犯罪というところだけでなく、TVアニメ版の主題に片山被告が重なる。『ライ麦畑でつかまえて』のホールデン・コールフィールドや、『タクシードライバー』のトラヴィスのようなことを考えていたのではないかと推測してしまう。

被告の考えを知ることの助けになるかと読んでみたが、

このマンガに感化されて一連の事件を起こしたというわけではありません。

 とあるように、このマンガは影響されるような内容ではなかった。

シンブンシを名乗る犯罪者集団の動機が最後に語られた。この動機はありえるかもしれないが、その目的のための手段としてインターネットで犯罪を予告し、実況するなんてことはないだろう?目的が達成されるなんて現実的でなさすぎる。犯人たちの刑が軽いのも納得できない。要するにシンブンシに共感できない。

インターネットの犯罪について描いているのに、インターネットのレベルを低く見過ぎだ。安全圏から他人を攻撃するのは楽しいから、匿名のインターネットでは人間の攻撃的な特性が表れて、他罰的になりやすいのは事実だ。しかし、インターネットの書き込みは道徳を失っているわけじゃない。むしろ過剰に道徳的だと思う。攻撃の対象になった人への同情は普通あるだろう。だから、ざまあとなる。その人に対してさらに直接的な制裁を加えることが喜ばれるなんてありえない。シンブンシに正義性なんてどこにあるのだ。

犯罪者を正義として描くのはよくあると思うけど、この作品はインターネットを見誤っているために、うまくいっていない。

シンブンシが動機を持つに至るところは共感できた。あいつらが現場監督のおっさんを殺すして死体とともに小屋を燃やすとシーンは、怒りが湧いた。ホリエモンみたいな人が経営するブラック企業のシーンも嫌なものをみた。人の痛みがわかるシンブンシたちが、私刑を行うところが大きな矛盾だ。