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『戦争広告代理店』

『ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争
高木徹
講談社文庫

ドキュメント 戦争広告代理店 (講談社文庫)

序章 勝利の果実
第一章 国務省が与えたヒント
第二章 PRプロフェッショナル
第三章 失敗
第四章 情報の拡大再生産
第五章 シライジッチ外相改造計画
第六章 民族浄化
第七章 国務省の策謀
第八章 大統領と大統領候補
第九章 逆襲
第十章 強制収容所
第十一章 凶弾
第十二章 邪魔者の除去
第十三章 「シアター」
終章 決裂

世界中の世論にセルビアを非難させた民族浄化報道.この影にはアメリカのPR企業があった.ルーダー・フィン社のジム・ハーフが率いるチームによる情報操作によって,アメリカの世論はセルビアを避難するものに誘導させれていたのだった.本書はこの情報を用いた戦争の実態を描いたドキュメントである.

PRとは「Public Relation」の略語であり,いわゆる広告代理店とは異なり,広告だけでなく,政界の有力人物へ働きかけたり,報道機関を誘導したり,あらゆる手段を用いて,顧客の評判を高めていく.ステマなんて生ぬるいレベルではないのだ.自己PRなどと,よくアピールと混同されて用いられるが,対象は世論のような広いものである.

情報の恐ろしさについて思う.PRによって,国家間の戦争の趨勢でさえ変えられるのだ.報道を含むあらゆる情報に,世論を誘導しようとする誰かの意図が含まれているとすれば,我々は何を信じればよいのか.

逆に,PRによって世論を誘導できるならば,敵に勝つためにはPRが重要だと分かる.敵もPRを行う.情報戦を制するものが,戦いに勝つことにつながるのだ.

そのとき,シライジッチの頭に,子供のころに聞いたボスニアのことわざが浮かんだ.
「泣かない赤ちゃんは,ミルクをもらえない」
 というものだった.
 国際社会に振り返ってもらうには,大きな声を出さねばならない.そして声の出し方にはさまざまなテクニックがあるらしい,ということをシライジッチは知った.(p.35)

日本の政府や企業は,グローバル化する社会でPR戦を制することができるのか.従軍慰安婦に関する韓国との戦いを見ていると,日本のPRの弱さについて考えさせられる.

セルビア人たちは,真実はほうっておいてもやがては自然に知れることになる,と素朴に信じる人たちでした.だから,自分たちに有利に世論をゆうどうするためにはお金をかける必要もある,ということをわかってもらうのに,骨が折れましたよ(p.197)

アメリカの世論を動かすことが,ユーゴスラビアでの内戦において重要であったという構図が興味深い.アメリカという国の強大さをあらためて知る.そして,アメリカ人の傲慢さを.

ハーフは,
ソ連が崩壊した後,アメリカの地位は唯一の超大国という,世界のどの国とも違ったものになりました.そうである以上,私は個人として,またPRのプロとしても,今や特別な国となったアメリカの国民として,さまざまな問題に苦しむ世界の国々に手を差し伸べ事態の解決に貢献してゆく責任があると思っています」
 と語っている.アメリカでは,民間の一企業人でも,国際政治に関与してゆくことを自分の責務だと考えている.ましてや,国務省には世界の問題を自分たちが解決し動かしてゆくのだ,という使命感は強い.(p.135)

アメリカのエリートのこの態度は鼻につくが,彼らをこちらの有利なように働かせるには,やはりPRが重要であるのだ.


FJK'S BOOK NOTEの2012年11月の記事より転載