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『Who Gets What』

考察

アルビン・E・ロス著『Who Gets What――マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学』を読んだ。本の内容とは別に考えたことを記す。

マーケットデザインというのは経済学・ゲーム理論の応用して効果的なマーケットの制度を設計しようというものである。経済学という学問は、数学の一分野に過ぎなくて、ほとんど数字遊びで現実に存在する問題の解決には全く貢献しない時代が長かったが、近年では経済学の知見を工学的に利用して現実の問題の解決することに成功している。現実に困っている人がいて、その問題の解決ができるということに私は面白さを感じる。

マーケットというのは、2つの集合――例えば、売り手と買い手、男と女、企業と求職者、大学と受験者――のそれぞれの要素を結びつけるシステムのことだ。2つの異なるクラスに属するものを結びつけることをマッチングという。マーケットというのははっきり誰かが定義していると限らない。誰かが何かを探し始めたら、マーケットというのは自然発生する。

しかし、皆が別々の場所・時間でマッチング相手を探していたら効率が悪いので、出会いの場所というのが設置される。*1このマーケットは人工的なもので、そこでのルールとかは設計の余地がある。設計が悪くてマッチングされる組み合わせが適当でなかったり、そのためにマーケットの外で取引が行われたりする。そうすると、みんなが幸せにならない。どのようにマーケットの制度を設計すると、参加者の全員が幸せになるのかを考えるのがマーケットデザインである。経済学というのは皆が幸せになる方法を探求する学問である。

世の中には証券市場に代表とされるような人工的なシステム化されたマーケットも多いのだけれど、そのようになってないマーケットの方が多い。何かと何かを結びつけることは、システムを介さずに行われているものがほとんだ。しかしながら、場所がないところでのマッチングというのは非常にコストがかかるものだ。仲介業というマッチングを行うための専門の業種が存在するほどである。

社会に存在する職業のうち相当部分は、仲介業である。例えば、営業職をしている人って労働人口のうちのかなりの割合を占めている。彼らは何も生み出しているわけではないにも関わらず、こんなにいるのはおかしい;マッチングを効率化する仕組みを作れば生産的な仕事に人口を割くことができる――という見方もできる。あるいは、マッチングというのはそれ自体がそれほどに価値を生み出すものだから、こんなに多くの人を養うことができる――という見方もできる。いずれにせよ、社会で行われている活動のほとんどはマッチングだというのは事実であろう。

今よりももっと高速に安価にマッチングを行うでも、今よりも適したマッチングを行うのでも、どちらのアプローチをとってもマッチングを効率化するようなマーケットを作るというのは、社会的に意味があることだろう。

さて、今私の前にあるコンピュータはインターネットにつながっているわけだが、インターネットというのはこれ以上ないほどにマッチメイキングを行うのに適した装置である。ほとんど全世界の個人が常に接続しているのだ。インターネットのいろいろな使い方が日々考案されているわけだが、何かと何か引き合わせるというのはインターネットの使い方として最も効果的な使用法なのではないかと思う。

インターネットを介したマッチングを行うサービスというのは既に多くあって、ヤフオク、メルカリ、楽天市場Amazonマーケットプレイスリクナビ、等々いくらでも挙げることができる。これらを使うことで、インターネット以前には仲介業者が必要だったり、あるいはインターネットがなければ成立しなかったマッチングというのが達成できるのだ。場所を提供するビジネスモデルをプラットフォームビジネスというそうだが、あたればでかい商売である。

インターネット上のマーケットというのはまだまだ可能性があると思う。本にあるようなゲーム理論をマーケットの設計に活用するアプローチというのは、有効な手法な気がしているのだ。昔、Gale-Shapleyアルゴリズム(受け入れ保留アルゴリズム)に基づいて最適なマッチングを作るという合コン用のAndroidアプリを作った。むき出しの理論のままでは全然使えないけれども、どうにかこのコンセプトを現実に適用できる形に落とし込めないかと未だに思っている。最大多数の最大幸福を実現するような仕組みが世の中に受け入れられると私は信じているし、それが実現した社会がどういうものなのかを見てみたいのだ。

*1:ナンパスポットのように自然に場所ができることもある。