ケリー基準

ケリー基準という、賭けに投じるべき額の総資金に対する割合を与える式があります。次のような問題があったとしましょう:

  • 賭けに勝つと掛け金の r 倍が利益になる。賭けに負けると掛け金分が損失となる。賭けに勝つ確率は p である。総資金の一定の割合 f を賭け続けるする。このとき、最も資産が効率よく増える割合 f* は?

答えは以下となります。

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分子は賭けの収益率の期待値です。期待値が正でない賭けを何度もする価値はありません。一方、分母はいわゆるオッズであり、賭けの手堅さを示しています。リスクの大きい大穴を狙うなら総資金に対して大きな割合を賭けてはならないということをケリー基準は教えてくれます。

さて、リスクとリターンを最適化するということが金融工学の目的ですので、このケリー基準は資産運用にも使えそうに見えます。リスク資産(株や債権)をどれぐらい持つことがもっとも効率のよい運用になるのでしょうか?

そこで株式バージョンのケリー基準を計算してみました。なお、 Kelly criterion - Wikipedia に書かれている結果と私が導出している結果は異なっていて、私の結果の方が複雑です。おそらく私が幾何ブラウン運動の過程を理解しておらず、抜けている仮定があるからと思われますが、大筋は一致しています。

投資をするときは利益を期待して投資をします。期待利益率を r とします。配当や物価の上昇、企業の成長による株価の上昇による利益をここでは期待利益率とします。

株価は期待とは別にまるでランダムかのように上がったり下がったりします。今回は株価にはランダムで、トレンドもなく、動きが予想できないような動きがあるとします。ボラティリティと呼ばれるような変動です。単位期間に σ の割合で株価が上がるか下がるかを、それぞれ 1/2 の確率で、するとします。なお、 σ > r > 0 です。運が良い場合に株は r+σ の利益率、運が悪い場合に株は r-σ と負の利益率となります。

株に一定比率 q で投資をするとします。株価が上がれば一部を現金に変え、株価が下がれば追加で投資をして、総資産に対する株式の割合を一定に保つとしましょう。このとき運がよいシナリオでは、単位期間後の総資産は (r + σ + 1) q + (r0 + 1) (1 - q) となります。運が悪いシナリオでは、単位期間後の総資産は (r - σ + 1) q + (r0 + 1) (1 - q) と σ の符号が逆になります。ここで、r0 は無リスク資産の利益率です。国債や銀行の定期預金の利率です。

単位期間後の総資産の期待値は f:id:fjkz:20180721134208p:plain です。何回も試行したときの、利回りの話をしているので、ここでは算術平均でなくて幾何平均とするべきです。

これが最大となる q (=q*) が今回欲しい値なので、微分値がゼロとなる q を求めると、 f:id:fjkz:20180721134746p:plain となります。

ケリー基準と同様に期待値をリスクで除した割合が、最適な割合となりました。(幾何ブラウン運動を仮定して導出した方が、q* = (r - r0)/ σ ^2 ときれいです。)

記号だと味気ないので値を入れてみましょう。

無リスク資産の利率は 0.05 %とします。株に期待できる利益率は 5 % でしょうか(数値の感覚が有無のが素人と玄人の違いですが、素人なのでよく分かりません)。ボラティリティは 20% ぐらいですか?このとき q* は 1 を超えるので、全ての資産を株に投資するべきという結論になります。そうであれば株価はもっと高いはずなので、5 % の利益を期待するのは多すぎるようです。

期待される利益を 3 % としますと、q * = 0.6 です。無限回の試行を仮定していて、リスクが過小評価されていますので、実際に総資産の 6 割も投資するのはリスクが大きすぎるように思います。しかし、どんなに欲張っても資産の 6割以上を単一のリスク資産に賭けるのは逆効果だということが分かります。