情報通信技術(IT)の主な用途は既存の業務の効率化である。計算機は決まった作業を正確にするのに優れている。帳簿をつけたり、そろばんを弾いたり、書類を回送したりする作業は人間がするよりも機械がおこなった方が効率がよい。そのため、計算機はこれらのつまらない仕事を肩代わりするために用いられてきた。ITはこれまで相当数の経理の人などを殺してきた。
その代わり増えたのは計算機のお世話をする人だ。狭い世界に生きている私にとっては、世の中のほとんどの人間が計算機の子守をしている。これらの人々はなにかを生み出しているかというとそういうわけではない。仕事の意義を唱えるならば、システムを安定稼働させてお客様の業務を止めないだとか、俺達の作ったシステムが社会基盤を支えているだとか、こういった言葉しか出てこない。
計算機のお世話をする産業――IT産業こそITで効率化すべきではないか。
システム開発・ソフトウェア開発は工場制手工業である。工場制手工業とは、工場に人を集めて分業をさせ、作業者に同じ作業を繰り返しさせることで、作業者の習熟度が上がり効率化が図れるというものだ。工場とは会社のことだ。ITは範囲も広く、一人ですべてを行うことは不可能だ。開発だとか運用だとか、ネットワークだとかデータベースだとかに分野を分けて、分業する方が合理的だ。
しかしながら、手工業と呼んだように、作業は手作業であり非効率だ。手作業でしかできないことは確かにある。設計は人間しかできないし、抽象度の高いところのレビューも人間にしかできない。だが、それ以上に機械で効率化できることが人間の手で行われているのが実情ではないだろうか。この作業余裕で機械化できるよな――というのを多く見かける。おそらく一般的にそうだと思われる。機械で業務が効率化できると信じていない人は、一体どういう動機でIT産業で働いているのだろうか。
工場制手工業に甘んじているシステム開発・ソフトウェア開発は、工場制機械工業へと移行すべきだ。工場制機械工業とは、人間の代わりに機械が生産をする形式の工業だ。それまで人力で行っていた紡績などが機械化した。いわゆる産業革命で、相当数の糸紡ぎ職人が機械に殺されたらしい。産業革命以来機械は様々な職業を殺してきたが、次に機械が殺すべきはIT産業だ。
システム開発・ソフトウェア開発を機械化する道具が揃い始めている。ビルド担当者は、「Git」と「Jenkins」があれば要らない。進捗・課題の管理も「Redmine」や「JIRA」といったプロジェクト管理システムを使えば効率化できる。レビューだって、trivialな障害のチェックは目視なんて馬鹿なことをしなくても「FindBugs」等の静的解析で検出できる。環境の設定も「Infrastructure as Code」と言われるように、「Chef」で自動化できる。機器の調達も「AWS」なら一瞬だ。
機械化すれば人間は他のことができる。機械に殺されると言ったけど、機械に仕事させることができる人は死なない。機械使えない人は死んだらいい。計算機のお世話係なんて無駄だ。機械使えない人が消えて、浮いた金と時間でもっと面白いことをしよう。
ITは業務の効率化なんかより、新しいことを生み出すことに使うべきだ。新しいこと・面白いことにだけ価値がある。
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