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『方法序説』を読んだ

所感 a.k.a. poem

デカルトの『方法序説』を読みました。昔読んだはずなのに全然覚えてなくて、びっくりした。

デカルトといえば『我思う故に我あり』の言葉で有名な昔の学者です。それ以外にもデカルトの影響は現代にも強く残っていて、ax + b = c というように、未知数を x, y, z, 既知数を a, b, c と置く中学生の時分に習う方程式の表記法は、デカルトが考案したものです。他には、平面上のある点を表すのに、x 座標、y 座標の値を用いて表す正規直交座標系もデカルトの発明です。

方法序説』は、有名な『我思う〜』が出てくるデカルト著作です。元は『理性を正しく導き、学問において真理を探求するための方法序説』という長いタイトルですが、略して『方法序説』という名で知られています。偉大な学者が、学問に取り組んだ際の方法論を語った文章です。タイトルがいかついですが、ただのエッセイです。女子供でも読めるようにラテン語ではなくてフランス語で書かれていて(私は古典フランス語は読めないので、日本語訳を読みましたが)、頭が湧いてくるような小難しいことも書かれていないです。

しかし、本書は偉大な学者の奥義の開陳であり、面白いことが書かれています。書かれていることは、現代の我々からしたら普通のことです。それはつまり、今日の学問はデカルトが語った方法論で行われているのです。当たり前を作ったというのは、人の業績の中で最も偉大なことです。当たり前になりすぎて意識しないような今日の常識がどこから始まったのかを知り、今日の常識を再考するというのは、私は面白いことだと思っています。

もちろん、この本を読んでも現代の問題の解は載ってないです。

自分の愛読する著書の中に(中略)著者が何も言っていない、おそらくけっして考えたことのないような、いくつもの難問の解決をそこに見出す

といった態度は本書でも批判されています。衒学ぶって、本書の内容を振りかざしてもそれだけでは役にはたたないので注意したい。問題の解決や真理に至る方法論は参考になるし、条件付きだが正しいことが書いていると思います。しかし、その方法でデカルトが得た答えは、昔の人の話なので現代では必ずしも正しくはないです。

さて、デカルトの方法というのは、以下の4つの規則に従えば確実な原理が得られるというものです。

  1. 『明証的に真であると認めるのでなければ、どんなことも真として受け入れないこと』
  2. 『検討する難問の一つ一つを、できるだけ多くの、しかも問題をよりよく解くために必要なだけの小部分に分割すること』
  3. 『思考を順序にしたがって導くこと』
  4. 『すべての場合に、完全な枚挙と全体にわたる見直しをして、なにも見落とさなかったと確信すること』

つまり、数学的な方法を一般化して適用するということです。科学の方法としては原始的ですが、蔑ろにはできない基本的な方法です。

しかし、上記のようなことを言っていたら何も進まないし、我々は不確実な日常を生きなければなりません。不確かな土台の上に日常がなりたっていたとしても、明日は来るのです。そこで、デカルトは生活の上の原則、つまり道徳として3つの格率を挙げています。

  1. 『わたしの国の法律と慣習に従うこと』
  2. 『自分の行動において、できるかぎり確固として果断であり、どんなに疑わしい意見でも、一度それに決めた以上は、きわめて確実な意見であるときに劣らず、一貫して従うこと』
  3. 『運命よりむしろ自分に打ち克つように、世界の秩序よりも自分の欲望を変えるように、つねに努めること』

デカルトの偉いところは、理性では確実な真理を追求しつつも、その裏で不確実な世界の中で幸福な生活を送ることもちゃんと考えているところです。私はこの点が本書で最も重要だと思いました。

方法序説 (岩波文庫)

方法序説 (岩波文庫)