やる順で仕上がりは決まる

仕事の出来栄えは、どのような順番でサブタスクをこなしていくか、考えていくかで大きく変わってくるように思います。もちろん、やる順番が唯一の説明変数ではありませんが、安定した仕事ができる経験豊かな人と、そうでない未熟な人、この二者の間では、明らかに手をつけていく順に違いがあります。

一般的に経験の浅い人たちは、どうやるのか想像がつきやすくて、簡単に手をつけやすいところから始める傾向があります。そして、手をつけ始めたところに夢中になってしまい、考慮していないところに大きな落とし穴があることに気づきません。後々になって問題が明らかになって、手戻りをしたり、いびつな状態で無理やり終わらぜなるを得なくなったりします。この結果、仕上がりは悪くなるのはよくあることです。

例えば、経験のない人が、設計をしてみたら、全体的には穴だらけなのに、一部はやたらと細かくなります。決まって、どこまで細かくしていいか分からないと言いながら、細かいところの議論に終始してしまいます。そもそも画面に必要な機能がふわふわしているのに、画面の絵を描いて意匠の議論が始まるなどよくあることかと思います。そして、追加要件があったときに(もとより未だ定まってないのだから追加要件ではないんだけど)無理やり画面に新しい要素を納めることになって、結果ダサくなります。

手をつけやすいところから始めるのは、何かやっていないと不安なのでとにかく進めたいと思っているからでしょう。実のところ手をつけやすいところを進めていっても、それは何かやっているフリをしているだけなのですが、なかなかこれは自分では気づかないものです。

正しいやり方というか、安定したやり方というか、老練なやり方は、簡単に手をつけやすいところからではなくて、不確実性が大きいところから解決していくものです。怪しげでリスクが高いところから潰していって、不確実性をすばやく収束させていくようにシニアな人は仕事を進めていきます。リスクを先にもってきて、後は流すだけとするのがきれいな仕事の進め方です。

不確実性が大きいところとは、利害関係者があったりして合意を取らないとひっくり返ったりする可能性があることであるとか、法務的あるいは技術的などの実現可能性に不安があったり、外部が行うので制御ができないことで不確実性が大きかったりするようなところですね。不確実性を測るのはできないので、どれが怪しいかは不安という野生の勘で決めていきます。

普通のプロジェクトマネジメントのやり方だと思いますが、これを体得するには経験を要します。不確実性に対する勘を得るにも経験がいりますし、不確実なものに立ち向かってコントロールするのは自然な心の動きに反するからです。自然にやれば、手をつけやすいところから始めたくなるのが常なので、それに反することを覚えるには訓練がいるのかなと思います。

では、シニアな人々が指導できるかというと、これも難しくて、老練な人でさえもジュニアたちと同じ罠にハマってしまってしまいます。

まず、順序のおかしい仕事でもやっているように見えちゃうんですね。3歩すすんで3歩下がるような手戻りをしていても、やっている人は6歩分仕事した気になるし、仕事をしているように見えます。手をつけやすいところから、思いついたことを思いついた順にこなしていっても、なんとなく仕事をしている気がするし、そう見える。頑張っているといって、そういうやり方を褒めちゃったりするわけです。具体的なものを尚早に求める態度を、スピード感がある勘違いしたりする。おっさんはそういう若い人が好きですよね。

また、細かいレベルの話をされたら、つられて細かいレベルの話をしてしまうものです。細かいレベルでも辻褄があってなかったら、それは正したくなる。大枠が穴だらけでも気づかない。本当は相手に引きずられずに、全体から見ていかなければならない。しかし、視点をスコープアウトさせて、見るレベルを上げる思考は、認知負荷が高くてストレスです。話を聞きながら、頭の中で抽象度を切り替えるなんて芸当はなかなかできないと思います。

そして、全体として誤っていたら、細かいところを考えたものは、心を鬼にしてすべて捨てしまわなければなりません。ちょっとでも時間を費やしたので、愛着が出ちゃっているから自らそれを捨てるのは難しいです。だから正しい考え方の順序というのを覚えていくわけです。しかし、自分のでさえためらうのに、他の人に一度した仕事を捨てさせるのは非常なストレスです。

指導、つまりコーチングをするのも、プレーヤーとしての思考ができるようになったら、自然にはできるようになるものではなくて、それなりに訓練がいるのかなと思います。どうやったらそんな人が生まれるんでしょうね。まだ考えはないです。

しかし、全員が老練であることはありえないし、老練な人だけで仕事をし続けるわけにもいかないので、コーチングができる人がいないと組織は育たないよなと思ったりします。